マラソンと蝋梅
今週のお題「冬のスポーツ」
冬のスポーツ、そう聞くとすぐに思い起こされるのは、
つい最近まで人々を沸かせたオリンピック。
だけど、きっと多くの方が書いておられる題材だし、私は語るほど詳しくない。
なので他のことを書いてみたい。
「冬」と「スポーツ」
この2単語から、私が考えるのは高校体育の授業でやったマラソンだ。
なぜかあの体育マラソンというのは夏にはやらない。
もう年もすっかり開けた3学期。一番寒風厳しい1〜2月の間だけ行われる。
長袖長パンの下にTシャツも着込み、それでも運動場は寒くて寒くて手がかじかむ。
薄曇りの空の下、冷気に晒された指はあっという間に赤くなった。
走る距離は約1kmだったけど、文系部活に所属していた人間には到底耐えられない長さで。
運動部の友人がピュンピュン追い越して行くのを横目で見つつ、のったりのったり歩くような速さで走っていた。
学校の運動場外周は1km分無かったので、私たちは目標量を越えるために何周か走らなければならなかった。
1周目はまだいい。でも2周目3周目となってくるともう既に足が重たくなる。
しかもペース配分なんぞが分かってないから、1周目は飛ばしがちなのだ。本当におバカ。
だんだんとスピードが落ちていく。貧弱な体力がゴリゴリと削られる。
まだ走るのか、後何周だよ、と全然届かないゴールが恨めしい。
冷たい空気を吸い込みすぎた肺が痛くなって、喉の奥から血の味がしていた。
足は若者らしく軽やかに、とはならず、むしろ地面を踏み締めている気分だった。自分の足元からずんずんという音がした。
ようやく地獄のような数分間が終わってゴールに辿り着くと、みんながゼーハー言っている中に紛れて座り込んだ。同じようにゼーハー言って、へばって、息を整えた。
高校卒業からもう随分になっている。けれど今でもよく覚えているのが、その集合場所の横に一本の木があった。
桃の花もまだ咲かないほど真冬で、もはや泣きたくなるほど寒いのに、菜の花色の黄色い花を満開に咲かせていた。
後から調べてみると、それは蝋梅というらしい。なるほど確かに蜜蝋のような色合いをしていた。
柔らかい黄色が黒々とした枝に花開いて、弱い日差しと薄灰色の空の下で際立ってよく見えた。今も記憶にくっきりと焼き付いている。
その時から、私の中で冬のマラソンと蝋梅はワンセットになった。
この時期になると蝋梅はいろんなところで咲いている。誰かの家の庭で、ホームセンターの売り場で、その辺の道端で。
蝋梅が目に飛び込むと、喉奥にじんわり滲んだ鉄の味、それから寒々とした北風吹き荒ぶ曇り空が芋づる式に思い起こされる。
小さく優しい色をしたあの花は好きだけれど、もう冬のマラソンをしなくてよくなったことにホッとする。そんな冬の日々である。
ということで、今週のお題「冬のスポーツ」
でした。
本っ当にもうマラソンは走りたくない。
トウリ